ニュースの概要
日本赤十字社が、災害後の避難生活では意識して身体を動かし、十分な栄養をとることが重要だと呼びかけました。熊本地震をめぐる報道でも、避難所で長く過ごす間に歩行や立ち上がりの機会が減り、体力低下から介護が必要になる危険が示されています。特に発災から1〜3か月は、持病の悪化や生活機能の低下が重なり、災害関連死が増えやすい時期です。防災を非常食や備蓄品だけの問題にせず、運動、食事、睡眠を保つ仕組みとして設計する視点が求められています。
引用元: 災害時の健康維持は「意識的な運動と栄養」が重要 日本赤十字社が注意喚起(Infoseek / NTV)
分析・見解
避難所での「動かない時間」が体力を急速に奪う
避難生活では、移動範囲が寝床とトイレ、配給場所に限られやすくなります。普段なら無意識に行っている買い物、階段の上り下り、家事がなくなるため、本人が休んでいるだけのつもりでも一日の活動量は大きく落ちます。高齢者や持病のある人は、その影響が数日単位で表れます。筋力が落ちると立ち上がりや歩行が難しくなり、さらに動かなくなるという循環が生まれます。
ここで重要なのは、運動を特別な訓練と考えないことです。座ったまま足首を回す、一定時間ごとに立つ、通路を短く往復する、深く呼吸する。こうした小さな動作を一日の予定に組み込むだけでも、体力低下の速度を抑えられます。避難所の運営側が「午前と午後に数分間の体操」と決めれば、本人の意志だけに頼らず実行しやすくなります。
非常食の量ではなく栄養の偏りが回復力を左右する
備蓄ではカロリーの確保が優先されがちですが、菓子類や主食に偏ると、たんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルが不足します。食事量が足りていても、筋肉や免疫機能の維持に必要な材料が足りなければ、感染症や転倒への抵抗力は下がります。水分不足も、体調不良や便秘、血栓のリスクを高める要因です。
実務では、主食だけでなく、缶詰の魚や肉、豆類、常温保存できる牛乳、野菜ジュース、果物の缶詰などを組み合わせることが現実的です。食物アレルギー、嚥下機能、糖尿病や腎臓病などへの配慮も欠かせません。避難所の食事管理は一律配布ではなく、年齢や健康状態に応じた選択肢を用意する段階に進む必要があります。
健康管理を個人の努力から避難所の運営機能へ変える
「各自で運動し、栄養をとる」という呼びかけだけでは、混乱の中で継続しません。必要なのは、健康行動が自然に起きる環境です。通路をふさがず歩ける配置にする、体操を知らせる掲示を目立つ場所に置く、食事の配布時に水分摂取を促す、血圧や体調の確認を定刻に行う。これらは高価な機器がなくても実施できます。
さらに、避難者の状態を記録して引き継ぐ仕組みが必要です。歩行が難しくなった人、食事を残す人、眠れていない人を早めに把握できれば、医療や介護の支援につなげられます。健康情報を紙で共有する場合も、記録項目をあらかじめ統一しておけば、支援者が交代しても見落としが減ります。
災害対応の評価軸は救命から生活機能の維持へ広がる
防災の成果は、発災直後の救助人数だけでは測れません。1週間後、1か月後にどれだけ歩ける人が保たれ、持病の悪化や孤立を抑えられたかも重要な指標です。この視点を取り入れると、避難所の広さや備蓄量だけでなく、運動時間、食事の組み合わせ、睡眠環境、相談件数を計画段階から確認できます。
今後は、自治体、医療機関、介護事業者、食品企業、運動指導者が平時から役割を決めることが求められます。スマートフォンや腕時計型端末で歩数や体調を記録する技術も役立ちますが、電源や通信が途絶える前提では紙の記録と対面の声かけが土台です。最も強い仕組みは、先端技術だけに依存せず、誰でも続けられる簡単な方法を重ねた仕組みです。
ビジネスへの影響
企業の防災備蓄は食料の数量から中身と配り方へ見直す
企業が従業員向けに備える食料は、人数分の水と主食をそろえるだけでは不十分です。長時間の待機や帰宅困難が起きた場合を想定し、たんぱく質を含む食品、食物アレルギー対応品、服薬中の人が利用しやすい食品を一定割合で用意する必要があります。賞味期限だけでなく、開封しやすさ、湯や調理器具がなくても食べられるかも確認項目です。
配布方法も事前に決めておくべきです。全員に同じ物を渡すのではなく、年齢、体調、勤務形態に応じて選べる方式にすると、廃棄と体調悪化を減らせます。備蓄品を定期的な健康研修や社内行事で試食すれば、更新漏れの発見と従業員の理解を同時に進められます。
事業継続計画に避難者の生活機能を測る項目を加える
事業継続計画では、設備復旧や出勤率が重視されます。しかし従業員が疲労や持病の悪化で働けなければ、設備が戻っても事業は再開できません。安否確認に加えて、歩行の可否、服薬状況、睡眠、食事の確保を簡潔に確認する項目を設けると、配置転換や休養の判断がしやすくなります。
発災後の職場では、数時間ごとの短い運動休憩、座り続けない勤務配置、十分な飲料水の確保を管理者の手順に組み込みます。これは福利厚生ではなく、判断力と作業安全を守る対策です。特に物流、医療、介護、製造など、少人数で業務を継続する現場ほど効果が大きくなります。
防災関連サービスは平時の健康支援と一体化する
企業や自治体にとって、災害時だけ使う仕組みは予算化しにくく、訓練も形骸化しがちです。平時の健康教室、備蓄品の販売、オンライン運動、地域の見守り活動と防災を一体化すれば、利用頻度が上がり、災害時にも使える関係性が育ちます。運動記録や食事確認を競争にせず、継続しやすい目標で支援することが重要です。
今後は、健康状態の把握、備蓄の更新、避難訓練、復旧後の職場復帰までを一つの計画として扱う企業が優位になります。導入時は高価な機器より、担当者、実施時刻、記録方法、支援先を明文化することから始めるべきです。