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ニュース解説

沿岸災害の見えない損失、被害額に出ない暮らしの傷

沿岸災害の見えない損失、被害額に出ない暮らしの傷

ニュースの概要

アジア開発銀行(ADB)とオーストラリア国立大学(ANU)の研究が、沿岸部の災害被害の測り方に疑問を投げかけた。これまでの被害評価は、壊れた家や道路といった目に見える資産の損失に偏りがちだった。だが実際の被災地では、心身の不調、食べ物や飲み水の不足、仕事の中断、避難のストレス、家事や介護の負担増など、金額になりにくい損失が長く続く。研究はバングラデシュのサイクロン被害などを手がかりに、女性や低所得層ほどこうした損失を重く受けると分析した。被害額だけで復興の優先順位を決めると、本当に困っている人を見落とす恐れがある。研究はそう警告し、防災政策に健康や暮らしの指標を組み込むよう求めている。

引用元: ADB・ANU研究、沿岸災害の健康・生活への「見えない損失」を指摘(Devdiscourse)

分析・見解

被害額が小さく見える地域ほど、実は傷が深い

災害の被害額は、壊れた建物や道路の資産価値をもとに計算される。この方法には大きな偏りがある。資産が少ない地域は、被害額も小さく出てしまうからだ。

たとえば、豪邸が並ぶ街と、トタン屋根の家が密集する漁村が同じ高潮に襲われたとする。数字の上では前者の損失が圧倒的に大きい。しかし漁村では、船を失えば収入がゼロになり、井戸が塩水に浸かれば飲み水が消える。損失額は小さくても、生活への打撃は比べものにならない。今回の研究が突いたのは、まさにこのずれである。

数字にならない無償の労働が、女性に集中する

研究が挙げた項目の中でも見逃せないのが、無償の家事負担だ。災害後は水くみの距離が伸び、燃料を探す時間が増え、病人や子どもの世話も重くなる。この負担は給料として記録されないため、被害統計にはまったく現れない。

多くの地域では、この役割が女性に偏っている。日本でも、避難所での炊き出しや介護が女性に集中した例は、過去の震災で繰り返し報告されてきた。つまり見えない損失は、だれにでも平等に降りかかるわけではない。もともと立場の弱い人に集まり、回復の格差を広げていく。

心の傷と健康被害は、数年遅れて請求書が届く

心理的な負担や慢性的な体調悪化は、災害の直後には表に出にくい。避難生活のあとに眠れなくなる、持病の薬が切れて悪化する、栄養が偏って子どもの発育に影響が出る。こうした変化は数か月から数年かけて現れる。

東日本大震災のあとに広がった震災関連死が、よい比較になる。建物の倒壊で亡くなる人より、避難生活の疲れや持病の悪化で亡くなる人が増えた地域もあった。被害額の統計では、これらは最後まで拾われない。研究が求めるのは、損失を後から測り直す仕組みだけではない。復興計画の段階で、健康と暮らしの回復を目標に入れておくことだ。

測り方を変えれば、お金の使い道が変わる

評価の物差しが変わると、予算の配分も変わる。道路や堤防への投資は引き続き必要だが、それだけでは足りない。診療所の機能維持、飲み水の確保、生計の再開支援、女性や高齢者に配慮した避難計画なども、同じ重みで比べられるべきだ。

課題は、見えない損失をどう数値にするかである。健康で過ごせた年数や、食料・水に困った日数のような指標は、すでに公衆衛生の分野で使われている。これを防災の評価にも広く取り入れていく流れが、今後強まるとみられる。

ビジネスへの影響

BCPの損失想定は、建物と設備だけでは足りない

多くの企業の事業継続計画(BCP)は、工場や設備の被害額と復旧日数を中心に組まれている。今回の指摘は、企業にもそのまま当てはまる。社員が出勤できるかどうかは、建物の無事だけでは決まらないからだ。

自宅が被災した社員、家族の介護や子どもの世話に追われる社員、避難生活で眠れない社員は、出社できても本来の力を出せない。BCPの見直しでは、従業員の生活再建、心のケア、通勤手段、水や食料の備蓄を、設備復旧と同じ表に載せたい。まず自社の社員のうち、被災時に家庭の負担が重くなりそうな層を洗い出すことから始められる。

取引先と地域の弱さが、自社の弱さになる

沿岸部に拠点や取引先を持つ企業は、サプライチェーン(=部品や商品の供給網)の途中にある小さな事業者の状況も確認しておきたい。資産が少ない小規模な事業者ほど、被害額は小さくても回復に時間がかかる。そこが止まれば、自社の調達も止まる。

具体的には、主要な取引先について、浸水想定、従業員の居住地、代替の調達先を一度整理するとよい。あわせて、防災訓練や備蓄を地域と共同で行えば、費用を抑えながら実効性を高められる。災害に強い会社とは、建物が頑丈な会社だけを指すのではない。人と地域の回復が早い会社である。

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