ニュースの概要
マンダリン オリエンタル ホテル グループが、サステナビリティ(=将来にわたって事業と環境を保つ考え方)を経営の根幹に置く新しい指針「MO.RE(モア)」を発表した。環境配慮を広報の一項目として扱うのではなく、ホテルの運営や投資、人材、地域との関わり方まで含めて判断の物差しにするという宣言である。高級ホテルは、豪華さや非日常を売る業態だ。そこで「もっと豊かに、しかし負荷は小さく」という方向へ舵を切る点に意味がある。本稿では、この発表を単なる環境施策としてではなく、変化に耐える経営の設計図として読み解く。
引用元: 【マンダリン オリエンタル】サステナビリティを経営の根幹に据え、ラグジュアリーホスピタリティの新たなあり方を提唱する、新たな経営指針「MO.RE(モア)」を発表 | マンダリン オリエンタル ホテル グループのプレスリリース(PR TIMES)
分析・見解
贅沢の定義が「量」から「質と意味」へ動いている
これまで高級ホテルの価値は、広い客室、豊富なアメニティ、手厚い人手といった「量」で語られることが多かった。しかし近年の富裕層は、何を使ったかより、その滞在がどんな背景を持つかを重く見る。地元の食材、地域の職人、無駄の少ない運営。こうした要素が、価格以上の納得感を生む。
今回の指針は、この流れを経営の言葉に直したものだと言える。サステナビリティを付け足しの活動にせず、判断の中心に置く。ここが従来の環境報告と違う点である。
環境対応は「コスト」ではなく「経営の体力」になる
環境対応というと、費用が増える話に聞こえる。だが実態は逆の面もある。エネルギー使用量を減らせば、光熱費の変動に強くなる。水や食材のロスを減らせば、仕入れ価格の上下に振り回されにくい。つまり、環境にやさしい運営は、外部ショックに耐える体力づくりでもある。
実例として、欧州の高級ホテルでは電力の自家発電や雨水利用を進め、停電や渇水の際にも営業を続けた事例が報告されている。環境投資が、そのまま事業継続の保険になっているのである。
災害や気候変動に強いホテルは、地域にも信頼される
ホテルは宿泊客だけの施設ではない。大規模災害が起きれば、食料、電源、寝床を持つ貴重な拠点になる。能登半島地震や台風被害の際にも、宿泊施設が避難者や支援者の受け皿となった例がある。
こうした場面で、日頃から省エネと備蓄、地域との連携を整えているホテルは強い。サステナビリティと防災は、実は同じ根から伸びている。日常の無駄を削る習慣は、非常時の資源管理に直結するからだ。
独自の視点として、指針の名前が示す「足し算」の発想に注目したい
「MO.RE(モア)」という名前は、直訳すれば「もっと」である。環境配慮というと、我慢や削減、つまり引き算の印象が強い。ところがこの名称は、むしろ豊かさを増やす足し算を示している。
我慢を求める活動は続きにくい。体験が良くなり、同時に環境負荷も下がるという設計であれば、顧客も従業員も自然に参加できる。ここに、高級ブランドだからこそできる説得力がある。今後は他の大手ホテルグループも、同様の言葉選びと設計思想へ寄っていくだろう。
ビジネスへの影響
宿泊・観光事業は「持続性の説明力」を問われる
今後、法人の出張規定や海外客の宿泊先選びでは、環境や社会への配慮を確認する流れが強まる。自社がホテルや旅館を運営していなくても、取引先として宿泊や会議を手配する立場なら、選定基準に関わってくる。
まず取り組みたいのは、現状の数値化である。電力、水、廃棄物、食品ロスのどれから手を付けるかを決め、半年単位で変化を追う。数字があれば、顧客や金融機関への説明が一気に楽になる。
事業継続と環境投資を一体で設計する
省エネ設備や再生可能エネルギーの導入は、環境施策として予算を取ると通りにくい。一方、停電時にも営業を続けられる、光熱費の高騰に強くなる、という事業継続の観点で組み直すと、投資判断がしやすくなる。
実務では、非常用電源と太陽光、蓄電池をセットで検討するとよい。さらに、地域の自治体や商店と災害時の協力協定を結んでおくと、保険としての価値が高まり、ブランドの信頼にもつながる。
小規模事業者でも、まずは「一つの指針」を言葉にする
大手のような予算がなくても、考え方は真似できる。自社の判断の軸を一文で定め、メニュー、仕入れ、清掃、人材育成に順に当てはめていく。指針が先にあれば、現場の小さな改善が一本の線でつながる。