ニュース解説

富士通と順天堂大学が挑む、災害時に止まらない医療の仕組み

富士通と順天堂大学が挑む、災害時に止まらない医療の仕組み

ニュースの概要

Fujitsu Japanと順天堂大学は、災害や感染症の流行が起きても医療を止めないための共同研究講座「Medical Digital Resilience Research Course」を立ち上げた。被災地の道路の混み具合、火災の発生、医療を必要とする人の数、病院の人手や物資といった情報をすばやく集めて共有し、病院や自治体の判断を助けることが狙いである。富士通が持つ洪水の予測技術やシミュレーションの力を使い、患者がどれだけ出るかを先読みする取り組みも含まれる。医療と情報技術の両分野が組み、被災時の意思決定を一つの画面で支える構想といえる。

引用元: Fujitsu Japanと順天堂大学、災害時も医療を継続するデジタル・レジリエンス研究を推進(BioSpectrum Asia)

分析・見解

医療が止まる原因は、建物の被害より情報の断絶にある

災害時に医療が機能しなくなる理由は、病院の建物が壊れることだけではない。むしろ多いのは、どこに患者が集中し、どの病院に余力があるかが分からなくなる状態である。2011年の東日本大震災でも、2016年の熊本地震でも、被害の小さかった病院に患者が集まらず、逆に被害の大きい病院へ搬送が偏る事態が起きた。物が足りないというより、見えていないことが問題だった。

この研究が目をつけたのは、まさにその見えない部分である。交通の混雑、火災、医療需要、医療資源(=ベッド、薬、人手など)を同じ地図の上に重ねる。すると、搬送の順番や支援物資の送り先を、勘ではなく根拠で決められるようになる。

洪水予測の技術を「患者数の予測」に転用する意味

富士通は川の水位や浸水範囲を予測する技術を持っている。今回の研究では、これを患者数の予測にも応用する。浸水が広がる地域と時間が分かれば、そこから搬送や救助の需要がどのくらい生まれるかを計算できるからだ。天気予報が傘を持つ人の数を変えるように、被害の予測が病院の準備を変える。

注目したいのは、災害そのものを止めるのではなく、災害の後に続く連鎖を読むという発想である。浸水、道路の寸断、搬送の遅れ、病院の過密と順に起きる流れを、事前にシミュレーションで何度も試せる。実際の被災で初めて経験するよりも、はるかに安全で安上がりな訓練になる。

医療機関と自治体の間にある壁を、データでどう越えるか

日本では病院、消防、自治体、保健所がそれぞれ別の仕組みで情報を管理している。救急の現場では、同じ事実を電話やファクスで何度も伝え直す場面が今も残る。災害時の混乱の中では、この手間が命取りになる。

順天堂大学は大学病院として臨床の現場を持つ。つまり、机上の理論でなく、実際に医師や看護師が使えるかどうかを検証できる立場にある。ここが民間企業単独の研究との違いだ。現場の使いにくさを早い段階で拾えれば、導入後に誰も使わない仕組みになる危険を減らせる。

技術より先に、運用ルールをどう整えるかが勝負になる

課題も明らかである。個人の医療情報をどこまで共有してよいか。通信が途絶えたときはどう動くか。平時に使わない仕組みは、災害時にも使われない。普段の救急搬送や病床管理の中で日常的に動かし、災害時にそのまま切り替えられる設計が欠かせない。

今後は、国や自治体が持つ防災情報との連携が進むほど効果が高まる。一方で、データ形式がばらばらなままでは共有が進まない。技術の優劣より、共通のルールを作れるかが成否を分けるだろう。

ビジネスへの影響

企業の事業継続計画にも同じ考え方が当てはまる

この研究の本質は、被害が起きた後に必要な情報を一か所に集める点にある。これは医療に限らない。工場、物流、小売の事業継続計画でも、被災後に最初に困るのは「どの拠点が動いているか分からない」ことだ。まず自社の拠点、仕入先、輸送経路の状況を、災害時にどう把握するかを決めておくとよい。人の安否だけでなく、設備と在庫の状態も同じ表に載せる設計が実用的である。

平時から使う仕組みでなければ、災害時に動かない

災害用に作った専用システムは、訓練のときしか触られず、いざという時に操作が分からなくなりがちである。日常の業務連絡や在庫管理の道具をそのまま非常時にも使う設計にすると、定着しやすい。導入を考える企業は、年に一度の訓練だけでなく、月次の業務で触れる場面を作ることを優先したい。

自治体や医療機関との連携は、新しい事業機会にもなる

医療や防災の分野では、データを集める企業、予測する企業、現場に届ける企業の三者の連携が必要になる。中小企業でも、地域の通信、物流、備蓄、健康管理といった強みを持っていれば、連携先として声がかかる余地は大きい。まずは地元の自治体の防災計画を読み、自社が貢献できる穴がどこにあるかを探すことから始めたい。

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